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    <モリーン・フレミングとの6ヶ月間>

      ――彼女のエクササイズと
            「Decay of the Angel」――

 2001年2月から8月までの6ヶ月間 モリーン・フレミングのエクササイズを学ぶ機会を得た。
 彼女のエクササイズは この上なく繊細で しかも内からのエネルギーに満ちた動きを生み出す。それは 深い呼吸とともに 足の小指の先端から 両手の指先 耳たぶ 頭のてっぺんといった体の隅々まで ゆったりと気をめぐらすことにはじまる。体は筋肉の力によってではなく 会陰より立ちのぼる気のエネルギーによって突き動かされる。その動きは 繊細ではあっても 体中に充満した気のエネルギーによって 内からの光を発する。
 一方 体の中心である腰は 常に地球の中心からのエネルギー「重力」を感じ まっすぐ地面に突き刺さる様に保たれ すべての動きの要となる。
 以上 彼女のエクササイズの基本的要素は 日本の古典芸能の基盤と全く同じである。彼女の独自性は そこに体のひねりを加えているところにある。
 ひねりの動きの源もやはり会陰から立ちのぼる気のエネルギーであることに変わりはないが さらに頭の重みや 耳を引っ張る天からの糸を感じ 利用することによって ダイナミックなひねりが生み出される。体の中心線はそのひねりによって 最大限まで引き伸ばされる。それはあたかも 一枚の雑巾をきつく絞り上げたように。
 気は体の隅々まで 螺旋を描いてめぐっていくのだが ひねりが加えられた分 その密度を増す。
 深い呼吸と ひねりを加えたゆるやかな動きとともに めぐって行く気の流れに意識を集中し 一時間ほどのエクササイズが終わった時に 私はすばらしい心地よさを感じる。それはあたかも深い眠りから覚めた時の様な 邪念の入る余地のない爽やかさである。
 モリーンのエクササイズは 新鮮な気によって心身ともによみがえらせてくれる癒しのエクササイズだ。 ヨーガや気功 道教の周天法と同じように そしてさらにパワフルな舞踊のための。

 2001年8月3日 モリーンの公演を森下スタジオで見た。彼女の今までの作品がいくつか並び 最後に 今回の日本滞在における成果「Decay of the Angel」が発表される。
 能「羽衣」より想を得た作品で 「羽衣」の仕手 天女は チュチュをはいた天使に 天女の舞う序の舞は 天使の踊る舞踏的バレエにと変わり モリーンの世界へと吸収されていった。
 特筆すべきは 彼女はこの作品の中に 能をはじめとする日本の伝統芸能において 最も重要な要素の一つである「間」 すなわち 「序破急」を採りいれたことである。その味付けによって エンジェルの心のひだの揺れ動きといったドラマが見えてきた。私はさらにその奥にモリーンの人生 人間の底知れぬ哀しみまでも透かし見てしまった。
 以前の彼女の作品は 血の通わない彫刻の連なりのような 無機質なものを感じさせたが この作品によって初めて 彫刻的な美しいフォルムのかげに 熱く流れる人の情や魂の叫びといったものを 観衆達に感じさせることができたのである。
 また彼女が題材として選んだ能「羽衣」は世界中の各地に同種の民話があり 国境を越えて人々の心をつかむ普遍性を持っている。多くの人々に愛されているこのドラマの持つ潜在的な力が 「Decay of the Angel」 の大いなる土台となって支えた。
 今後この作品の再演を重ねることにより さらに豊かな感動を与える作品へと育まれることを祈っております。

2001年8月22日
吉村桂充

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